夢や挑戦を応援し、背中を押してくれる映画

何かに挑戦しようと思えば、挑戦できる機会がたくさん転がっている現代。
それなのに、「自分には無理だ」と諦めて3日坊主で終わったり、「あなたには無理よ」と周りから言われてしまい、始めることすらできない人も多い。

しかし、海苔漁という過酷な仕事の傍ら、ピアノを練習し続け、夢を叶えた男がいた。
その姿を描くことで、「人間、やろうと思えばできないことはない」「新しいことを始めるのは、今からでも遅くない」と、挑戦する一歩を踏み出す勇気をくれる映画です。

無骨な手で夢をつかみ取る海苔師の物語

九州佐賀の有明海で、海苔師一筋に生きて来た男は、ある日、フジコ・ヘミング演奏によるフランツ・リストの「ラ・カンパネラ」を聴いて、感動し身を震わせた。そして決意する。「この曲を弾きたい!」

プロのピアニストも怯むほどの難曲、フランツ・リストの『ラ・カンパネラ』。無謀だ、絶対無理、と妻や息子の猛反対を押し切り、音楽とは無縁だった52歳の男の、本気の挑戦が始まる。

日々苛酷な自然と闘う海苔師の仕事人としての姿を追いながら、その一方で夢とロマンを求めて、ひたすらピアノに立ち向かった海の男の1年間。海の男は、なぜ無謀と思われた「夢」を追い求めたのか?

その想いの裏には、反対する妻、息子、父親や仲間たちへの「愛情」と祖先から受け継いできた海苔漁という仕事への「誠意」と「誇り」があった。

こうと決めたらとことんやり抜く九州男児の心意気に感動し、彼を取り巻く悲喜こもごもの人間模様に共感しながら、誰もが元気になり明日への希望を抱ける映画です。

あらすじ

  • 1

    海苔漁の閑散期、主人公はパチンコに明け暮れる

    徳田時生(52)は、海苔師になって三十有余年、今年も又繁忙期が終った途端、気が抜けたようにパチンコに明け暮れていた。これでいいのか? 最近、時折迷いや不安が過る。だが結局は、パチンコにのめり込んでいく毎日。

    海苔師の仕事は自然との闘い。日照りや台風などの災害に大きく左右される。加えて会社の資金繰りなどもあり、ストレスが溜る毎日。佐賀県有明の海苔漁の繁忙期は、9月中旬から翌年の3月までの約半年間。よって、4月から8月の暑い時期は暇なのだ。そのために、暇になるとパチンコ店通いで気分転換、ストレス解消してきたのだ。

    そんな7月半ばのある日、パチンコですっからかんに擦った時生は、リベンジする為、妻の財布から2、3枚ちょろまかそうと帰宅。儲けて返しとけば分かりゃしない。ところが、財布の中は空っぽ。いや、紙きれが1枚ハラリと落ちた。「盗るな」と妻の字が怒っていた。徳田時生の家の屋根には風見鶏が壊れたまま立っていた。

  • 2

    海苔漁の閑散期、主人公はパチンコに明け暮れる

    自棄酒飲んで昼寝していると突然、つけっぱなしのテレビから、激しい情熱的なピアノの音色が聞こえて来た。衝撃が走った!生まれて初めて身が打ち震える感動に打ちのめされてしまった。
    「オイもこの曲を弾いてみたか!」曲目はリストの【ラ・カンパネラ】。演奏者は、かの有名なフジコ・ヘミングだった。

    幸い、妻の奈々子はピアノの教師。家にピアノはある。だが、奈々子先生は呆れ果てて一笑に付す。「ムリムリ、プロでも難しい曲よ。弾けるわけがない」

    大恋愛で結婚した徳田夫妻も結婚24年で倦怠期。最近では悉く気持ちがすれ違い喧嘩も増えた。
    舅が脳梗塞で倒れ介護が必要となっており、一人息子の優斗は美容師になると言って博多に出ていった。奈々子のストレスは、積もるばかり。

  • 3

    音楽には全く無縁の海苔漁師・徳田時生の挑戦が始まった。

    楽譜は読めない。『ド』の位置すら戸惑う。だが、怯まない。仕事仲間にも馬鹿にされながらも時生は楽譜を購入し、ピアノに向かった。1日4時間、長い時は8時間、独自で猛練習を始める。夢中になると時間を忘れ、海苔漁が終わってからも夜遅くまで練習を続けた。

    種付けした海苔網を支柱に張る大事な日。前夜、疲労困憊でピアノ室で居眠りした時生は、寝過ごして部屋を荒したまま漁に出かけてしまう。すると、奈々子の怒りは爆発した。「以後、使用禁止!」と。どんなに釈明しても聞く耳を持たない。売り言葉に買い言葉で時生も応戦、「もうよかッ、お前のピアノなんか、借りるもんかッ」

    こうなったら、自分でピアノを買うしか方法がない。しかし、手元にあるのは8万円。それでなんとかピアノを手に入れようと楽器店で中古ピアノを値切り倒す時生。すると突然、見知らぬ老女が声をかける。老女は古い邸に一人暮らす石田麗子(78)。その応接間には古ぼけたスタィンウェイのグランドピアノがあった。すると麗子はいとも簡単に言った。「このピアノ、あなたにあげるわ」。近々老人ホームに入居するので、自分にはもう用はないと。その代わりと言って、麗子は時生に約束させる「必ず弾けるようになって、老人ホームに弾きに来て欲しい」と。早速、倉庫を改築して自分のピアノ練習場を作った時生。猛烈な練習が始まる。

  • 4

    息子が家業を継いでくれるというが、素直に喜べない

    突然、息子の優斗が帰って来た。美容師の夢は諦めて海苔師を継ぐという。海苔師の間では今、後継者問題が深刻だ。願ってもない息子の英断のはずだったが、時生は素直には喜べない。一度決めた事をあっさり放り出すヤツに海苔師は務まらん!と。案の定、不馴れな優斗は失敗ばかりで足手まとい。父子の対立は激しくなり、船上で取っ組み合いの喧嘩まで起きる始末。思わず息子が口を滑らす「ピアノなんかにうつつを抜かしている父ちゃんに言われる筋合いはない」

    時生の猛練習は続いた。第1テーマがなんとか弾けた時の喜びは大きかった。と同時に、暗澹たる思いも過る。先は長い。一体いつになったら最後まで弾き通せるのだろうか?時生は、挫けそうになる気持ちを必死に鼓舞しながら練習を続けた。時生に内緒で奈々子がつけていたのは、楽譜に咲く花丸。その数が少しづつ増えていく。

  • 5

    海苔の不作、腱鞘炎、それでもピアノを続ける主人公

    そんな中、海苔漁の大敵『赤ぐされ病』の発生や天候不順で海苔が不作、会社の経営は窮地に追い込まれる。「社長のピアノ狂いで、徳田水産が危ない」そんな噂も流れる始末。しかし、時生は動じない。言いたいヤツらには言わせておけ、とピアノの練習を続けた。

    更に困難は続いた。根を詰めたせいで腕が腱鞘炎を起こし、痛みで夜も眠れなくなっていた。「無理したら、仕事も出来ないし、一生ピアノも弾けなくなるよ」と奈々子。しかし、時生は、練習を休もうとしない。すると、さすがの奈々子の堪忍袋の緒がキレた。「休まないなら離婚する!」吹き荒れる嵐に風見鶏が悲鳴を上げて回っている。そして、それを修理する息子・優斗。

  • 6

    自分にとって大事なものは?ピアノを断念すると決めた。しかし・・・

    時生は、このままピアノを続けていいか悩んだ。そんな時、寝たきりの父親を元気づけたいと、古湯温泉へ家族で行くことに。温泉の中で幸せそうな父や妻、息子の笑顔を見ていたら、時生はこの笑顔を守ることが自分の使命だと気づき、遂にピアノを断念する、と告白する。ところが思いがけず、奈々子から「やめて本当にエエの?後悔せんの?」と問い質された。さらに、麗子の「生きがい」が、時生の『ラ・カンパネラ』を弾く夢を一緒に見ることであることを聞かされる。「夢があれば、なんでもできる」「徳田時生にしか弾けない『ラ・カンパネラ』を聞かせて欲しい」とほほ笑んだ麗子の瞳を想い出す。麗子の憔悴は激しく、急がなければ間に合わない、と悟った時生の猛練習が再開された。

  • 7

    妻に感謝とサプライズを!

    9月に入り、支柱を建てる作業が始まった。いよいよ今年も又繁忙期に突入する。その前にどうしてもと時生は決心し、奈々子の財布に『招待状』を入れた。

    『中秋の名月の夜、漁師小屋で待ってます』それを見た奈々子の顔に、久しぶりに笑みが零れた。 

モデル

徳永 義昭

プロフィール

昭和35年、佐賀市川副町生まれ。

昭和54年、家業の海苔養殖業に就き、海苔師となる。海苔加工業『徳永水産』を経営。特殊特定小型船舶操縦一級免許及び無線局免許を取得。
現在は、妻・長男・長男の妻・ 孫の5人家族。

度々マスコミに取り上げられ全国に知れ渡るようになった現在も海苔師の仕事とピアノを両立しながら、小・中学校などの教育現場や講演会で『ラ・カンパネラ』を披露。さらに手品やトークをまじえてのコンサート活動を展開。『新たな挑戦に年齢は関係ない、夢は追いかければつかむことができる』と、更なる夢を追いかけている。

主演

伊原 剛志

プロフィール

1963年福岡県生まれ、大阪府出身。高校卒業後に上京し、「ジャパンアクションクラブ」(現JAE)に所属。’83年、舞台「真夜中のパーティー」で俳優デビュー。’96年NHK連続テレビ小説「ふたりっ子」で全国的に注目され、映画、ドラマ、舞台と幅広く活躍。’06年、クリント・イーストウッド監督作「硫黄島からの手紙」に出演、ブラジル映画「汚れた心」(’12年)、ハリウッド映画「ラスト・ナイツ」(’15年)、’23年のヴェネツィア国際映画祭で、イザベル・ユペールと共演したフランス映画「Sidonie in Japan」が公開されるなど海外にも活躍の場を広げている。

監督

鈴木 一美

プロフィール

1955年、秋田県出身。秋田県立大曲農業高校、横浜映画放送専門学院(現日本映画大学)卒業。
コチ・プラン・ピクチャーズ 代表。

映画プロデューサーとして、2003年「さよなら、クロ」(キネマ旬報7位)、2018年「野球部員、演劇の舞台に立つ!」(文部科学省特別選定作品、ぴあ満足度1位)等、多数の映画・テレビドラマを制作。
著作「ノンフィクション 戦場に輝くベガ 約束の星を見上げて」(浅野ひろこ共同執筆)一兎舎刊(図書選定)。
「地域に腰を据え、地域の方々と一緒に楽しく創り上げる映画」を目指している。

今回は、徳永氏のあきらめない生き方に共鳴し、監督に初挑戦する。